カルシウム拮抗薬との相互作用の原因物質は、グレープフルーツ(ジュース)中のフラボノイドですか?

ナリンジンをはじめとするフラボノイド類は相互作用の原因物質ではないと考えられます。
フラボノイド類はグレープフルーツジュース中に大量に含まれ、かつ、ヒトのチトクロームP450(CYP3A4) の強力な阻害物質であることが、in vitro実験より明らかにされています。
しかしin vitro 実験の結果とは異なり、in vivo試験においては、ナリンジンの水溶液やカプセル剤を投与しても、 ニソルジピン、フェロジピン、あるいはニトレンジピンの体内動態はほとんど変化しなかったことから、 フラボノイド類は相互作用の原因物質ではないと考えられます。

グレープフルーツジュースはナリンジン、ネオエリオシトリン、ルチンなどのフラノボイド類を含み、なかでもナリンジンはジュース1 L中に約800 mgと大量に含まれています。
これらフラボノイド類は、ヒトのチトクロームP450(CYP3A4)の強力な阻害物質であることが、ヒト肝ミクロソームを用いた in vitro 実験より明らかにされています。
この報告によると、ナリンジンよりもナリンゲニンの阻害作用が強いとされています。
このことは、ヒト肝ミクロソームの CYP3A4に対するグレープフルーツジュースの阻害作用が、ナリンジナーゼ(ナリンジンからナリンゲニンを生成する酵素)とのインキュベーションによって上昇することからも示されています。

しかしながら、上記のin vitro実験の結果とは異なり、in vivo試験によると、ナリンジンやそのアグリコンであるナリンゲニンは、グレープフルーツジュース中の主な阻害物質ではないという報告があります。
Baileyらによって実施された3種の臨床試験(*1)では、ナリンジンの水溶液やカプセル剤をグレープフルーツジュース飲用時と同用量投与しても、ニソルジピン、フェロジピン、あるいはニトレンジピンの体内動態にはほとんど影響を及ぼさなかったと報告されています。
グレープフルーツジュースとの相互作用はフェロジピンの通常製剤でも、吸収が腸の下部にまでわたると考えられる徐放性製剤でも同様に生ずることが示されています。
ここでもし、ナリンジンからナリンゲニンへの変換に糞便中に存在する腸内細菌が必要とされるならば、グレープフルーツジュースの効果は小腸よりも大腸の酵素に対して影響すると考えられますが、Lownらの研究結果(*2)では、グレープフルーツジュースの相互作用の部位は小腸であると明らかに示されています。

以上の知見より、グレープフルーツジュース中のナリンジンが相互作用の原因である可能性は低いと考えられます。
また、ニフェジピンの血漿中濃度推移に対するケルセチンの影響がヒトにおいて検討されています。
ここでも、ニフェジピンのAUCは、200 mLのグレープフルーツジュースにより増加するが、400 mgのケルセチン(グレープフルーツジュースに含有されている量の40倍以上)では、全く変化していません。

in vivo においてナリンジン、ナリンゲニン、ケルセチンの阻害作用が観測されないのは、阻害活性が弱い(Ki値が大きい)か、あるいはそれ自身の代謝分解が考えられますが、それらについては今後の検討が必要です。
またフラノクマリンによる阻害は、CYP3A4を不可逆的に不活性化する"mechanism-based inactivation"であるとされており、かなり強力な阻害作用を示しているのに対し、フラボノイド類の阻害は単なる競合阻害である可能性も考えられます。
これらは今後の検討課題となります。


(*1) Bailey DG, Arnold JM, Strong HA, Munoz C, Spence JD. Effect of grapefruit juice and naringin on nisoldipine pharmacokinetics. Clin Pharmacol Ther. 54(6):589-94, 1993 (PMID:8275614)

(*2) Lown KS, Bailey DG, Fontana RJ, Janardan SK, Adair CH, Fortlage LA, Brown MB, Guo W, Watkins PB. Grapefruit juice--felodipine interaction: mechanism, predictability, and effect of naringin.J Clin Invest. 1997 May 15;99(10):2545-53.(PMID:9153299 )